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奈良地方裁判所 平成6年(行ウ)8号 判決

アメリカ合衆国カリフォルニア州マリーナデルレイ市

マリーナシティ通り四三三五番地八四六号室

(居所)奈良県生駒郡三郷町立野南二丁目九番三八号ホテルバンガード三郷

原告

池田育弘

奈良県大和高田市西町一番一五号

被告

葛城税務署長 高橋敬治

右指定代理人

川口泰司

的場秀彦

前川典和

西川裕

西仲光弘

西教弘

中村美彦

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

一  請求の趣旨及び原因

別紙訴状写し記載のとおり

二  被告の答弁及び原告の反論

被告の答弁は、別紙答弁書写し記載のとおりであり、原告の反論は、別紙準備書面写しの記載のとおりである。

三  当裁判所の判断

訴状及び原告の準備書面によれば、本件訴えは葛城税務署長を被告として原告の平成四年三月一六日付けの納税管理人の届出(国税通則法一一七条、同施行令三九条)の無効確認を求める訴えであると認められるから、これは、行政事件訴訟法上の「無効等確認の訴え」と解される。しかし、納税管理人の届出は、公法関係における行為ではあるが、私人の行為にすぎず、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(同法三条二項)ではないから、同法三条四項の規定する無効確認訴訟の対象とはならない。結局、本件訴えは不適法であり、その欠缺を補正することができないものである。

よって、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法二〇二条により本件訴えを却下し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 井上哲男 裁判官 近田正晴)

訴状

アメリカ合衆国カリフォルニア州

ラキャナダ市シェハレムロード八三九

(送達場所)-原告日本滞在時宿泊場所

奈良県生駒郡三郷町立野南二丁目九番三八号

ホテルバンガード・三郷

原告 池田育弘

奈良県大和高田市西一-一五

葛城税務署

被告 葛城税務署長 高橋敬治

無効確認請求事件

訴訟物の価格 金九五〇、〇〇〇円

貼用印紙額 金 八、二〇〇円

請求の趣旨

一、原告の平成四年三月一六日付けの平成二年度修正申告の納税管理人の選出届の無効であることを確認する。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との、判決を求める。

請求の原因

一、原告は、平成二年よりアメリカに居住している者である。

原告は、納税管理人選出届に署名・捺印した覚えはない。

原告は、税理士である和田健氏に納税管理人を委任した事実もない。

また納税管理人の手にある平成二年度の修正申告も、原告は作成を依頼した覚えもない。

原告は、平成六年七月一四日に、これらの書類が北葛城税務署に提出されていることを知り、不利益が生じるとも限らないので、これらの書類が無効であることを確認する。

以上

平成六年七月二一日

原告 池田育弘

奈良地方裁判所 御中

平成六年(行ウ)第八号

原告 池田育弘

被告 葛城税務署長

答弁書

平成六年九月三〇日

被告指定代理人

〒五四〇 大阪市中央区谷町二丁目一番一七号大阪第二法務合同庁舎

大阪法務局訟務部(電)〇六-九四二-一四八一

部付検事 川口泰司

訟務官 的場秀彦

〒六三〇 奈良市高畑町五五二番地奈良第二地方合同庁舎

奈良地方法務局訟務部門(電)〇七四二-二三-五五三四

上席訟務官 前川典和

訟務官 西川裕

訟務官 西仲光弘

〒五四〇 大阪市中央区大手前一丁目五番六三号大阪合同庁舎第三号館

大阪国税局課税第一部国税訟務官室(電)〇六-九四一-五三三一

主任国税訟務官 西教弘

総括主査 中村美彦

奈良地方裁判所民事部 御中

第一 本案前の申立て

本件訴えを却下する

訴訟費用は原告の負担とする

との判決を求める。

なお、本件訴えは、以下のとおり不適法であり、その欠缺が補正することができない場合に該当するから、口頭弁論を経ずに、判決をもって却下されるべきである(民事訴訟法二〇二条)。

第二 却下判決を求める理由

一 行政訴訟において、無効等確認の訴えの対象は、行政事件訴訟法三条四項に規定するとおり、処分もしくは裁決の存否又はその効力の有無であり、ここにいう処分とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為であるところ、納税管理人の届出は、公法関係における行為ではあるが、私人の行為にすぎず(田中二郎・新版行政法(法律学講座双書)一一〇ページ)、行政庁の処分ではない。つまり、納税管理人の届出行為は、納税管理人と国との間において、納税者本人に代わって納税者本人がなすべき国税に関する事務を行う代理権を納税管理人に発生させるための前提事実にとどまるものである。

二 本件訴えを民事訴訟と善解し、民事訴訟法二二五条の証書真否確認の訴えと解したとしても、確認の訴えである以上、即時に確定する利益を有しなければならない。

原告の主張の本旨は、請求原因から推察するに、平成二年分の修正申告の無効を求めているようであるから、その主張に沿った訴訟形態を選択した上で、その訴訟の中において訴外和田健の代理権を争い、その立証として納税管理人の選任届の真否を争えば済むものである。したがって、同選任届の真否の確認を求める即時確定の利益はなく、不適法である。

三 仮に、本件訴えが平成二年分の修正申告の無効確認の訴えと善解できたとしても、その訴えは、法律関係そのものの存否ではなく、法律関係発生の要件をなす前提事実にとどまるものについての有効無効の確認を求めるにすぎないから、訴えは不適法なものである(東京高裁昭和四〇年九月三〇日判決・税務訴訟資料四一号一〇四四ページ、東京地裁昭和四六年八月六日判決・税務訴訟資料六三号二三六ページ、東京地裁昭和五六年四月二七日判決・行集三二巻四号六六一ページ、福岡地裁昭和五七年二月二五日判決・税務訴訟資料一二二号三六八ページ、大阪地裁平成二年五月二九日判決・税務訴訟資料一七六号一〇八五ページ)。

四 したがって、原告の本件訴えをいかように善解しても補正することはできず、速やかに判決をもって却下されるべきである。

平成六年(行ウ)八号無効確認請求事件

準備書面

原告 池田育弘

被告 葛城税務署長

右当事者間の頭書事件につき、原告は平成六年九月三〇日付けにて被告が提出された答弁書に対し、以下のように反論する。

平成六年一〇月二八日

原告 池田育弘

奈良地方裁判所民事部 御中

第一 本件訴えは、以下に述べるように適法である。

従って原告は、速やかに訴状通り結審していただくよう判決を求めるものである。

第二 被告の主張に対する反論

一、本件訴えが、行政訴訟において処分もしくは採決の存否、またはその効力の有無を対象としていないことは、あきらかである。

二、そもそも納税管理人とは、国税通則法一一七条において定められているように、日本国内に居住しない納税者にかわって、納税申告書の提出、その他国税に関する事項を処理するものである。

本件においては、請求の原因において既に述べているように、原告の知らない間に、納税管理人の選出届が原告の承諾無しに勝手に被告宛に提出され、それに基づいて平成二年度の修正申告書が提出されていたのである。

原告においては、平成二年度の修正申告書の提出以外に、原告の国税に関する事項について、一体どのような事項が、いつどのように処理されたのかしるよしもないし、また被告からしらしめられてもいない。

原告からの度重なる問い合わせに対しても、被告は何ら回答をしていない。

平成二年度の修正申告に基づいて、原告は現実に身に覚えの無い納税を請求されているのである。

原告においては、そういった意味において、原告の権利または法律的地位に危険・不安が現存しているのである。

かつまた、その危険・不安を除去する方法としては原告・被告間において、その請求について判決をすることが有効適切である。

すなわち原告においては、本件において『確認の利益』を有することは明白である。

従って、本件訴えは適法である。

三、本件訴えが、平成二年度における原告の修正申告の無効を求めているのではないことは、既に前述の通りである。

以上

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